蘋果日報の成功と失敗 敗者の回顧録
蘋果日報の成功と失敗 敗者の回顧録
「不党、不売、不私、不盲」は貫かれたか
李怡氏は香港を代表するジャーナリスト。学生時代から左派で親共の立場をとり1970年に評論雑誌『七十年代』創刊したが、中国共産党に反対に転じ、1984年に雑誌を『九十年代』と改称して香港トップのクオリティマガジンに育てた(1998年停刊)。自らも長く寄稿してきた香港紙・蘋果日報(リンゴ日報、アップルデイリー)が6月24日を最後に停刊したのに際し同紙上で、同紙が実業家による創刊で読者のニーズに的確に応えてきた点を評価しながら、「法治」への過信が失敗であったと論じた。李怡氏の許可を得て、本人のフェイスブックから訳出する。【翻訳:富柏村】
蘋果日報の停刊で、そこに連載されていた私の「敗者の回顧録」もまた中断する(訳注1)。
蘋果日報は1995年に創刊され、その年末、私は論壇欄で毎週土曜日に評論「李怡専欄」の連載を始め、2005年から同紙論壇のメインエディターを2014年まで勤め、その間にエッセイや社説の「蘋論」いくつもの論評を書き、2016年から私の半生記となる「世道人生」の連載を今年3月まで続けた。私の半生は月刊誌『七十年代』、その後の『九十年代』の総編集を28年続け、その後、蘋果日報で25年の執筆だったので、半世紀にわたる筆耕の生涯で一半近くが蘋果日報とともに在ったことになる。
この連載のタイトルを「敗者の回顧録」としているが、論筆の仕事、家庭や生活を顧みると、私の半生はけして総じて「失敗」ではなかったが、私が一生のなかでずっと求めてきた「理想」はいま振り返ってみると、幾度となく失望となり、価値観は粉砕され続け、その点から見ると私は「敗者」なのだ。
蘋果日報の停刊前の末期の紙面に、この「敗者の回想録」の終章を書いている。四半世紀にわたりこの新聞に寄稿し編集にも参画し、毎日読み続けた新聞。私の「敗者」の定義からすると、この新聞も敗者である。
しかし忘れてはいけないことは、これまでの香港で発行されてきた新聞のなかで、蘋果日報はかつてはもっとも成功した一紙であったことだ。その成功が失敗に向かった外的要因は、もちろん世界的な紙媒体の衰退とオンラインメディア情報の爆発的な増加だろう。しかし蘋果日報が、その上で停刊を余儀なくされたのは、我々が周知のとおり、強大な権力の介入があり、香港は「礼崩楽壊」つまり社会秩序やモラルの崩壊があり、人権は保障されず法治も蔑ろにされた、その結果でもある。
蘋果日報の創刊者・黎智英(ジミー・ライ)はアパレル業界で成功した実業家で、メディア業界に参入した。連日、編集会議を開いて上級管理職ばかりか読者まで招き、すべての紙面の報道について見出しから記事内容まで余地を残さず評価した。「新聞は読者に読んでもらうものであって、新聞にはトップは一人しかいない、それは経営者でも広告主でも管理職でもなく、読者なのだ」と読者の関心を最優先にした。
黎智英には新聞発行の経験はなかったが、商売の十分な経験があった。従前からの新聞界はジャーナリストや文筆家が集まり辣腕の編集長がそれを取りまとめていたが、我々が蘋果日報に垣間見たのは商才にあふれた商機を逃さない辣腕の経営者の顔だった。
彼のメディア会社・壹媒体(ネクストメディア)社は週刊誌『壹週刊』と『蘋果日報』は発行部数を伸ばし、ゴシップ週刊誌の『忽然一周』やグルメ誌『飲食男女』が次々と評判となり、台湾版の蘋果日報も発行。どれもこれまでの新聞社経営のやり方を打破しての成功だった。
しかし台湾での市場拡大を目指した地元紙の買収や香港でのフリーペーパー発行も失敗……ことに台湾のテレビ局「壹電視」経営は大赤字。蘋果日報は創刊から間もなく発行部数を大幅に増やしたがボス(黎智英)は投資を惜しまず経営コストもかかり利益は上がらない。富裕の青年が編集や論評の方針に一切介入しないことを約束して30億HK$(約420億円)で蘋果日報の買収の手をあげた時も、手元資金の枯渇していた黎智英はこの買収提案を拒絶した。
この蘋果日報発行の長い年月のなかで中国は何度か黎智英の囲い込みを試みている。台湾にいた黎智英のもとに中国側の意を伝えるべく訪れた客を黎智英は保安員を呼んで追い出し、文化界のある大物は黎智英に大陸に戻り(黎智英は大陸生まれで香港への密航者である)中国での新聞発行を唆し、親類を通して北京旅行に誘ってもみたが、黎智英は頑なにそれを拒絶してきた。彼は自立した報道のために一切の妥協や取引を拒んだのだ。
いずれにせよ、この商才ある経営者が設立した「壹媒体」が香港に出現し、従前からの新聞業界に勝る成功をおさめたことは中文新聞史では1926年に張季鸞(訳注2)が『大公報』を中国の近代ジャーナリズム黎明期の代表紙にしたことに匹敵する快挙だろう。
張季鸞は「不党、不売、不私、不盲」という「四不」の原則を示している。特定の政党に加担せず、言論で取引をせず、私益を得ず、権力に盲従せず、つねに公器として公民の言論を代表すること。これは今のメディアにも求められる理念だが、大組織のメディアほど、これに忠実であることは難しく、黎智英もその「四不」のすべてをきちんと理解して実行できていたとは言い難い。
権力に阿(おもね)ることはなかったが香港の民主化実現という言論で民主派政党支持となり、思考と行動が過激化する若年層と距離をとるか近づくか(2019年にはついに「不割席=仲間割れせず協働」と腹を括った)、不党は困難な状況だった。言論で取引も私益もなく、「盲従せぬ」は自明だが、どの程度それができたかは意見の異なるところか。
そんな黎智英の最大の失誤は彼が最も尊重する遵法と法治への過信といえるだろう。1997年(香港の中国返還)の2年前に蘋果日報を創刊した当時、黎智英は中国政府が香港基本法を遵守し、平和的に民主的な香港統治を実現できると信じていたのだ。しかし中国政府が最も忌み嫌う方法論は、暴力的抗争ではなく、法に基づく和平的な手段で人民が自主権を勝ち取ろうとすることなのだ(訳注3)。
蘋果日報がない香港はどうなるのだろうか。少なくとも政界・財界の裏取引を暴くようなメディアは存在しなくなるだろう。例えばキャリー・ラム(林鄭月娥)行政長官が一昨年、中央政府に当てた報告(強硬政策は市民の反感を得るだけ、何らかの妥協が必要といふ内容の彼女の本心を吐露した内容)も蘋果日報が特ダネにしたが、「壹媒体」を除けばニュースの来源を秘匿してニュース提供者を本当に保護するメディアは他にないから、こうした情報提供もありえない。
私が蘋果日報の論壇欄に関わっていた時のアシスタントだったカリーナは昨日、フェイスブック上にこう書いた。「蘋果日報に別れを告げるなんて考えたくもない。どうすれば『精神』に別れを告げることができるだろうか。殊更、今日の香港では……」
「成功があがりでもなければ、失敗が終わりでもない。肝心なのは続ける勇気である」(ウィンストン・チャーチル)。「不党、不売、不私、不盲」という「四不」の勇気、それは蘋果日報の「精神」そのものであって、それが人々の心に深く根ざしている。
(2021年6月24日版蘋果日報に掲載)
(訳注1)連載は今後は李怡のフェイスブックで継続される
(訳注2)ちょう・きらん[1888~1941] 日本に留学し東京第一高等学校(後の早稲田大学)に学ぶ。中華民国成立に関わり孫文の秘書務め、ジャーナリストとして『大公報』紙の再建に加わり見事に論陣を張り、中国の近代ジャーナリズムの確立に業績を残した
(訳注3)抗議活動が暴力的であれば武力鎮圧で済むが合法的な手段ではいちいち対応して何らかの交渉や妥協が必要となるから中国共産党政府がそうした手段を嫌うと李怡は見ている
「 不 党 、 不 売 、 不 私 、 不 盲 」 は 貫 か れ た か
李 怡 ジ ャ ー ナ リ ス ト
file:///C:/Users/yeele/Downloads/%E8%98%8B%E6%9E%9C%E6%97%A5%E5%A0%B1%E3%81%AE%E6%88%90%E5%8A%9F%E3%81%A8%E5%A4%B1%E6%95%97-%E6%95%97%E8%80%85%E3%81%AE%E5%9B%9E%E9%A1%A7%E9%8C%B2-%E6%9D%8E%E6%80%A1%E8%AB%96%E5%BA%A7-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E%E7%A4%BE%E3%81%AE%E8%A8%80%E8%AB%96%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%20(1).pdf
日本経済新聞社 文化 部 在 Eumifairy Facebook 的最讚貼文
草津溫泉(群馬縣)連續第16年🎊在第32屆“日本溫泉100選擇”(主辦· 観光経済新聞社)報導中名列前茅。在此提供100個溫泉給你選擇包括“氣氛”,“質量”,“環境和體驗”和“地道飲食文化”。
日本経済新聞社 文化 部 在 雜學校 ZA SHARE Facebook 的最佳解答
分享|TaiwanPlus文化台灣 2018
今年9月,中華文化總會特別與許多台灣在地品牌合作,前進日本東京,打造一場以市集、音樂、展覽為主的「文化台灣 Taiwan Plus」,藉此傳達當代文化創造、美學創意、土地等台式精神。
至於為何取名為「Taiwan Plus」,是因為台灣除了日本民眾熟悉的美食、美景、人情味外,其實還是有許多超越既有想像的可能性。屆時的活動內容將以音樂、市集、裝置展等項目展現在眾人面前,藉此表達台灣當代之流行文化、風土味覺、生活型態,讓不論是日本當地人或是駐日的台灣人甚至是來自世界各地的遊客都可以透過這場台灣文化祭更加了解台灣這個美麗的島嶼。
_
▲ 期間 │ 9月22、23日(市集:11:00-18:00、音樂:16:00-20:00)
▲ 地點 │ 日本東京上野恩賜公園 東京都台東区上野公園 池之端三丁目
▲ 網址 │ https://taiwan-plus.jp/
【Taiwan Plus 文化台灣】
台灣有無限的可能,等待你的探索!
🌸最好的探索方式,就在今年9月22至23日,日本東京上野公園!
👋🏻小T這次不僅會揮手,還會變變變飛機、變變變怪獸、變變變時針!!
✈️我們將透過多元豐沛的活動、最精彩的美學,將台灣的新文化能量帶去東京,做為一次強力的文化發信。
日期:9月22日(六)~23日(日)
時間:11:00〜20:00
地點:東京上野恩賜公園
地址:東京都台東区上野公園・池之端三丁目
#我們將會傳遞:
✅台灣正在發生的文化風潮
✅台灣獨有美好的文化體驗
✅台灣才能看見的文化風景
活動內容將以 #市集、#音樂 兩大區塊為主,並加入展現台灣風土的特別企畫展-「#晒日子」,以加深本活動文化厚度。邀請的策展單位與設計師皆是這幾年台灣最重要的 #創意文化代表,除了呈現台灣近年如何在傳統與現代之間融合、傳達台灣當代之生活型態、流行文化、土地味覺,進而與日本社會溝通新世代的 #台灣力量,號召新世代創意人共同在東京發聲,更期望本次活動是有延續性、包容性、能夠成為長期規劃的一項活動,以東京為起點,向世界傳達台灣的當代文化!
🎵【音樂:The Sound of Island】
角頭音樂 TCM透過有故事情節的安排,呈現出台灣豐富、熱鬧、快意盎然,卻又帶有藝術傳承意義的場景。演出者包括 女孩與機器人 The Girl and The Robots、 Sangpuy 桑布伊、 阿爆(阿仍仍) 府城流浪漢 - 謝銘祐 陳建年 黃連煜Ayugo 等,從台北開始,沿途行經濁水溪、嘉南平原、花東海岸,最後來到台灣的心臟,如同環島一圈的旅程般,接下來他們更要將漂流各地的音樂匯聚成河,給在東京的人們帶來一場超乎想像的音樂旅行。
🎪【市集:Taiwan Culture Market】
集結全台灣由北到南,具代表性的有質好物共 #50組品牌。有揉和著地理氣候所料理出來的地道 #美食,請來吃盡台灣的風土民情;以城市成長為脈絡所衍生出的 #設計 新氣象,請來看看台灣的創作力量;與自然調和、富有溫度的 #文化展演,請來體驗台灣的溫柔魅力。盡情地享用台灣的各種滋味吧!邀請你到東京上野恩賜公園,來一場漫遊台灣的 #五感旅行。
✅ 主辦單位:中華文化總會、台日文化交流基金
✅ 協辦單位:台灣新聞社 台湾新聞社、上野觀光聯盟
✅ 後援單位:台北駐日經濟文化代表處、台北駐日經濟文化代表處 台灣文化中心 台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター、台東區
✅ 指導單位: 文化部 、 外交部 Ministry of Foreign Affairs, ROC(Taiwan)、 經濟部國際貿易局、 交通部 觀光局、 原住民族委員會、#客家委員會、 僑務委員會 OCAC
✅ 贊助單位:兆豐國際商業銀行、 台灣菸酒公司、 中華民國對外貿易發展協會、 EVER RICH 昇恆昌、中國信託
✅ 音樂策展:角頭音樂 TCM
✅ 市集策展:#富錦樹
✅ 設計統籌:究方社
✅ 日本執行: CINRA, Inc.
➕Taiwan Plus文化台灣
【官方網站】https://taiwan-plus.jp/
【官方twitter】https://twitter.com/Taiwan_Plus
--
『TAIWAN PLUS 2018 文化台湾』
会期:2018年9月22日(土)〜23日(日)11:00〜20:00
会場:東京 上野恩賜公園
住所:東京都台東区上野公園・池之端三丁目
Web : https://taiwan-plus.jp/
台湾+ってどんなイベント?
その歴史と立地から、お互いに深い関係にある日本と台湾。近年、台湾は日本の各メディアや雑誌でも特集が組まれるなど、その文化に日本の若者も関心を寄せつつあり、注目を集めています。
国内外に向けて台湾文化を紹介している台湾文化総会は2018年9月22日(土)〜23日(日)の2日間、カルチャーフェスティバル『Taiwan Plus 2018 文化台湾』を上野恩賜公園にて開催します。東京でリアルな台湾の文化やクリエイティブを知ってもらい、お互いの文化にとっての刺激的な機会を作っていきます。
『Taiwan Plus 2018 文化台湾』は、マーケットイベントと音楽イベントが同時開催されるカルチャーフェスティバルです。マーケットにはアジアで最も影響力のあるデザイン賞である『DFA アジアデザイン賞(DFA Design for Asia Awards)』を受賞したコミュニケーションイベント『晒日子』の展示も予定。音楽イベントでは、台湾全土からそれぞれの地域を代表する7組のアーティストが出演します。その出演者全員が台湾を代表する音楽賞『ゴールデン・メロディ・アワード(金曲奨)』の受賞者です。
イベント会場には、拠点を台湾におき、そのカルチャーを牽引しているクリエイターが集います。いま台湾で一番ホットなライフスタイルや、食材を活かしたフードを通して、ぜひ台湾の熱いエネルギーを体験してください。いままでのイメージとは異った、新鮮な台湾の面白さを体感できるはずです。
私たちは、このイベントを通して台湾の下記の要素を伝えていきます。
・いまリアルに起こりつつあるムーブメント、出来事
・いままさに発展しつつある現在系の独自文化に触れる体験
・本来は現地でしか体感することができないシーンの全容
LIVE – The Sound of Island
台湾一周旅行というコンセプトの元、メインステージではミュージシャンによるパフォーマンスが繰り広げられます。台北から始まり、濁水渓と嘉南平原、花東海岸、そして台湾の中央へ。女孩與機器人、桑布伊、陳建年など、台湾全土からそれぞれの地域を代表する実力あるミュージシャン全7組が出演。台湾全土の音楽をまるで旅しているように体験しながら、台湾文化の奥深さと特色ある各地の魅力を堪能して頂けます。日本からは、カルチャーメディアCINRA.NETブッキングによるアーティストが出演予定です。
Market – Taiwan Culture Market
洗練された台湾料理や屋台のB級グルメ、レトロな街並みから生まれるクリエイティブなデザイン、台湾のライフスタイルのそばにはカルチャーがあります。
台北から台南‧高雄まで、台湾カルチャーを代表するブランド約50組が東京に大集結!アジアで最も影響力のあるデザイン賞である『DFA アジアデザイン賞』を受賞したコミュニケーションイベント『晒日子』の展示も予定。
観光するだけでは味わうことができない台湾の普段のライフスタイルを五感で楽しんでいただけます。台湾のローカルの味覚が楽しむことができるキッチンカーも多数出店します。
主催:中華文化総会 /台日文化交流基金
共催:台湾新聞社 /上野観光連盟
後援:台北駐日経済文化代表処 / 台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター /台東区
特別後援:台湾文化部 / 台湾外交部 / 経済部国際貿易局 / 交通部観光局 / 原住民族委員会 / 客家委員会 / 僑務委員会
スポンサー:兆豐国際商業銀行 / 台灣菸酒 / 中華民国對外貿易発展協会 / 昇恆昌 / 中國信託
音楽ディレクション:Taiwan Colors Music
マーケットディレクション:Fujin Tree Group
デザイン統括:JOEFANG STUDIO
運営:株式会社CINRA