【映画の精神医学】１５ 映画の一回性～『ピープルVSジョージ・ルーカス」』
ジョージ・ルーカスが生み出した『スター・ウォーズ』は世界中に大旋風を起こしました。しかし、旧三部作に手を加えた「特別編」や、新三部作の大きな失望など、主に『スター・ウォーズ』旧三部作の熱狂的なファンの意見や証言から構成されたドキュメンタリーです。
『スター・ウォーズ』のファンではあれば、「あるある」と共感するか、あるいは苦笑い、時に大笑いしながら楽しめる作品になっています。
一方的なルーカス批判ではなく、ルーカス自身の発言やマスコミでの報道などを交えて、多面的にとりあげられているので、どこかに共感する視点を見出すことができます。
私も『スター・ウォーズ』は好きで、『スター・ウォーズ』の本まで出版していますが、この映画に登場する熱狂的なファンには全くかなわない、というのが正直な感想。
私は、この映画をみて、ヒッチコック監督の「たかが映画じゃないか」という名言を思い出しました。あまりにものめり込みすぎたり、ディテールにこだわり過ぎると、映画ってつまらなくなるんじやないか。あくまでも、「娯楽」なんだから、もっと気楽に楽しんでいいんじゃないか、と。
私は、以前から「映画の一回性」ということを考えています。映画というのは、「一番最初に見た感動体験」というのが非常にかけがえのない、大切な体験であって、DVDで同じ作品を見ても、それを追体験することはできない、ということです。
劇中の挿入歌として"George Lucas raped my childhood ."というのが使われています。ジョージ・ルーカスは私の少年時代をレイプした（汚した）という意味ですが、それは少々言い過ぎではないかと思います。
「特別編」で新しいエピソードを加えようが、新三部作が期待にそわない作品であったとしても、一番最初に見た『スター・ウォーズ 新たなる希望』の一回きりの感動に影響を及ぼすものではありません。『トータル・リコール』のように記憶が操作されたわけではないのですから。
熱狂的なファンたちは、最初の『スター・ウォーズ』の体験があまりにも強烈すぎたために、その呪縛から逃れられなくなってしまっている。最初の一回目の感動を追体験しようと躍起になるわけですが、ルーカスが封印したオリジナル版のDVDが発売されたとしても、最初の一回目の感動を追体験することができるはずもなく、、また別な不全感ほ感じるだけでしょう。
初恋の女性が忘れられなくなって、別な女性が受け入れられなくなったような状態とでもいいましょうか（笑）。
私は、『スター・ウォーズ』は大好きですし、最初の一回目の衝撃体験も忘れられるものではありません。しかし、DVDはそれぞれ数回しか見ていませんし、そんなに見返したいとも思いません。その暇があれば、まだ自分が見たことのない新しい映画との出会い、新しい「一回性」の感動を味わいたいと思うからです。
私はスター・ウォーズ・ファンというよりは、一人の「映画ファン」であることを、この映画を通して、確認できた気がします。
追伸 予告編を見るだけでも、かなりこの映画の雰囲気はわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=JqP9a61XePQ
